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家族看護学(令和4年度)

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ページID:0027421 更新日:2023年4月3日更新 印刷ページ表示

ケア検討会

第5回 リカレント教育

【日時】令和4年11月18日(金曜日)18時30分~20時35分
【方法】Web会議システム
【参加者】修了生4名、在学生1名、教員4名


 家族看護学領域では、大学院修了生の研鑽の場として、毎月第3金曜日にWeb会議システムを活用したリカレント教育を開催しています。第5回は、家族看護の基盤となる家族発達理論を取り上げ、「理論であそぼう―家族発達理論―」をテーマに開催しました。
 まず、第1部では、実践における家族発達理論の有用性と活用する上での課題について話し合いました。参加者は、病気によって家族が直面する危機(状況的危機)とともに、家族の発達段階に伴って生じる危機(発達的危機)を予測しながら家族支援を行っていました。家族発達段階の第1段階は、家族の“形”ができる段階であり、この段階での取り組みが後々の家族の関係や絆、価値観に影響する最も重要な段階です。参加者は、家族発達に関するこのような視点を持ちながら家族の歴史を家族とともに振り返ることで、家族が家族形成期から大事にしてきたことをケアに活かしていました。一方で、看護者自身が経てきた発達課題は捉えやすく、家族の理解につなげることができますが、まだ経験していない段階の家族については、発達課題を提示しても理解が難しいとの意見があり、想像力を働かせ、様々な発達段階にある家族を発達という視点から捉えていくことが重要であると考えられました。
 第2部では、第2段階(出産家族)という同じ発達段階にある年代が異なる夫婦の模擬事例を使って、家族発達理論の視点からどのように見ることができるのか自由に話し合いました。まず、20歳代の夫婦と生後2か月の子どもとの3人暮らしで、妻が育児不安からうつ病と診断された家族について考えました。第2段階の発達課題は、(1)子ども、母親、父親それぞれの異なる発達ニーズを満たす、(2)家族員が新しい役割を学習し、役割行動を習得する、(3)家族で役割の調整を行い、家族機能や家族関係を拡大する、です。夫は仕事に力を注ぐという自己の発達ニーズは満たすことができていましたが、育児は妻に任せ父親としての役割行動を習得することができていませんでした。一方、妻は一人で育児に取り組み、夫や両親に助けを求められない状況にあり、(2)(3)の発達課題は達成できていないことがみえてきました。次に、40歳代で不妊症治療を経て出産に至った出産家族の場合について考えました。家族の強みとして、出産まで夫婦で同じ目標に向かって取り組んできたことで絆の強さがあることが挙げられました。20歳代の夫婦と異なる点として、夫が若い頃よりも社会的責任を担う年齢であることから仕事への比重が大きくなり、一層育児にかかわる機会が持ちにくく、(2)(3)の発達課題に取り組むことが難しくなりやすいこと、さらに両親の高齢化に伴う介護問題の可能性など壮年期家族特有の発達課題が生じることが考えられました。このことから、同じ第2段階の出産家族であっても、単純にその発達課題に当てはめてみていくのではなく、そこに至るまでの家族の歩みを捉え、社会的役割なども考慮し家族を捉えていくことが重要であることが見出されました。
今回の検討を通して、これまでの家族の歴史を踏まえること、家族の未来を見通す視点をもって家族を理解していくことの重要性に改めて気付くことができました。

 


 

第3回 リカレント教育

【日時】令和4年7月15日(金曜日)18時30分~20時30分
【方法】Web会議システム
【参加者】修了生5名、在学生2名、教員4名


 家族看護学領域では、大学院修了生の研鑽の場として、毎月第3金曜日にWeb会議システムを活用したリカレント教育を開催しています。昨年度、修了生を対象に行ったアンケート結果をふまえ、今年度は全8回を計画し、4回は理論や最新の家族看護についてのディスカッション、4回は事例検討を予定しています。
 第3回は、社会・家族の変化と家族看護について考えるひとつの切り口として、「ダブルケア」を取り上げました。まず、教員より、「ダブルケア」という概念がいつ頃から、どういう分野で注目され、どのように扱われてきたのかということについて、社会情勢の変化や政策との関わり、研究的な取り組みなどの視点から話題提供を行いました。そのうえで、家族看護の立場から「ダブルケア」はどのように捉えることができるか、「ダブルケア」を体験している家族に対してどのような支援が考えられるかについて、ディスカッションを行いました。
 「ダブルケア」とは、狭義では育児と介護の同時進行の状況を指していますが、実際にはきょうだいと親、子どもと夫など、様々な形で複合的なケアを行っている状況もあります。家族支援専門看護師として活動している参加者からは、臨床において複数の健康問題を抱えている家族と出会う機会は多く、その状況が「ダブルケア」として概念化されていることに驚いたという意見が出されました。つまり、育児と介護のように複数の家族内のニーズに対応していくことは、家族発達の過程で当然起こってくる変化であり、家族看護の立場では、常に家族システム全体を視野に入れ、そのような状況のすべてを包括的に捉えているということが語られました。また、別の参加者からは、様々な年代の、発達障害やひきこもりといった多様な健康課題をもつ人を対象とした民間のデイサービスが設置されようとしているという話題も提供されました。
 「ダブルケア」に社会的な注目が集まった背景として、少子高齢化と家族の小規模化、女性の社会進出の進展などの社会情勢の変化により、以前は家族内で担うことができていた「ダブルケア」に、家族の力だけで取り組むことが難しい状況となってきたことが考えられます。今回の参加者とのディスカッションをとおして、家族発達や家族システムなど家族看護の基盤となる考え方を活用して生じている現象を捉えることや、その視点から年齢や健康問題で支援を区切るのではなく、「人の一生」「家族の一生」として支援を考えることなど、「ダブルケア」への家族看護の立場からの取り組みの糸口が見いだせました。

 


 

第2回 リカレント教育

【日時】令和4年6月17日(金曜日)18時30分~20時40分
【方法】Web会議システム
【参加者】修了生4名、大学院生2名、教員4名


 第2回リカレント教育を開催しました。今回は修了生から事例を提供して頂き、事例検討会を開催しました。
 患者は全前置胎盤のため入院中で、帝王切開での出産を控えている女性です。以前よりうつ病で内服治療中でした。家族は夫と子どもの3人家族で、夫は発達障害、子どもは発達障害と精神疾患を診断されています。患者は妊娠後、夫との関係性に悩み、うつ病が悪化し精神的に不安定になっていました。さらに、子どもも学校生活でのトラブルを抱えたことで、患者の精神状態がさらに不安定になっている状況もありました。スタッフはこの様な状況で出産を迎えてしまうと、精神状態が悪化し育児もままならなくなるのではないかと危惧していましたが、ケアの方向性や方略が見いだせず困難さを感じていました。
 最初に看護師の抱える困難さを明確にしていきました。精神的に不安定な患者の許可なく家族と話をすることができない状況があり、看護師の発言で患者の精神状態を悪化させてしまうのではないのかという点、患者の気持ちをどう引き出していけば良いのかという点、このまま精神状態を安定させ出産したとしても、退院後状態が悪化し虐待等に至るリスクが高いことが懸念事項として挙げられました。
 そこで、これらの懸念事項の基にある患者の精神的不安定に焦点を当て、その背景について考えました。第1子は産前産後ともトラブルなく実母のサポートもあったが、今回は実母が高齢となりサポートが得られない状況であること、帝王切開が予定されており理想通りの妊娠経過ではなく、初めての帝王切開に強い不安を抱いていること、長女との間に密着した関係があり、自分がいない間の長女のサポート状況が心配であることなどが挙げられました。また、患者はスタッフに自分のことを理解してもらえない辛さを感じているのではないかと考えられました。その背景として、元々生きづらさを抱え、自分の発言を誤解された経験などから友人が作れず、周囲に理解してもらうことへの諦めや人との距離感をつかむ難しさがあること、困っていることを他者に話す習慣がなく自分から悩みを打ち明けられないことなどが推察されました。
 さらに夫との関係についてアセスメントしていきました。患者の入院中は、夫と子どもの2人で生活し、出産後に夫は1年の育児休暇を取得予定であるなど、患者は生活の面では夫を頼りにしていました。一方で、以前精神的な辛さから助けを求めた時、夫から「無理」と言われたエピソードがあり、精神的に頼る存在ではないと認識し、割り切っているのではないかとの意見が出ました。また、患者の生活歴を紐解くことで、人に頼らずに生きてきた患者の姿や、だからこその周囲との関係の持ち方や距離の取り方が見えてきました。
 以上の視点で段階的にアセスメントを行い、スタッフは患者が元々持っている特徴に加え、夫との関係性から生じている精神的な不安定さを抱える患者に関わる困難さを感じていたことが分かりました。そして、このような患者に対する援助として、生活の支援と精神面の支援とを分けて考えていくことが必要ではないかと考えました。生活の支援では、人間関係が複雑になりにくい行政の支援は、患者にとってしがらみのない中で欲しいサービスが提供されるという点でベストである、精神面のサポートは少し遠方ではあるが、患者にとって最も頼りになる母と姉のサポートが得られるようにするなどの意見が出ました。また、緊急の出産も視野に入れて、メンタルヘルス科への受診、保健師の新生児訪問を早めに依頼する、産後ケア施設への入所、助産師外来への受診など患者と家族を支えるシステムを構築していくことも重要であると考えられました。
 今回の事例では、家族全員が精神的な病気やそれに起因する不安定さを抱えているが故の難しさがあり、そこに目が向きがちになってしまいますが、生活を整えることも大切な支援であること、関係性が不安定な中では家族内でのサポートや調整を基本とするのではなく、行政や病院等のサービスの活用も重要であること、CSNにはこのような複雑な課題を抱える家族への支援が期待されていることを認識できました。今回は現在進行中の事例であり、検討する中で見えてきた家族の姿や家族支援のアイデアを実際に活用し、評価することができます。今後も、リカレント教育が知的な刺激や学びの場としてだけでなく、修了生の家族看護実践を支える場として活かされることを願っています。

 


 

第1回 リカレント教育

【日時】令和4年5月20日(金曜日)18時30分~20時40分
【方法】Web会議システム
【参加者】修了生7名、大学院生2名、教員4名


 家族看護学領域では、大学院修了生の研鑽の場として、毎月第3金曜日にWeb会議システムを活用したリカレント教育を開催しています。昨年度、修了生を対象に行ったアンケート結果を踏まえ、今年度は全8回を計画し、4回は理論や最新の家族看護の動向についてのディスカッション、4回は事例検討を予定しています。
 第1回は、「理論であそぼう―システム理論―」をテーマに開催しました。今回は、突然家族の一員が余命1週間であることを宣告され、動揺している家族の映画を題材として使用しました。まずは映画の一場面を視聴し、家族をどのように捉えたのかを自由に話し合いました。この家族は、患者と夫の2人暮らし、長男は会社員で妊娠中の妻と生活をし、次男は大学生で一人暮らしをしています。参加者からは、患者が余命1週間と宣告されてICに同席していた夫と長男は動揺し衝撃を受けていたが、その思いは言語化されることなく、患者以外の男性3人は要件だけ伝えるという元々のコミュニケーションのスタイルが想像できること、夫と次男は長男に頼っており、その長男は妊娠中である妻を心配し、定位家族の問題には巻き込まないように対応していたことなどが出てきました。
 次に、家族システムのアセスメントの視点として『オルソンの円環モデル』を参考にし、検討しました。このモデルは、家族システムの機能状態を家族の凝集性と適応力から捉え、それぞれ4段階に分類し、その組み合わせで16類型化しているモデルです。最初はバラバラに見えていた家族を家族の凝集性と適応力という視点で捉え直すと、患者の余命を宣告され動揺しながらも父と長男・次男がIC後、今後についての話し合いをするために集合していた場面などから、家族が凝集性を高めて、病気に伴う家族内の変化に対応しようとしている様子がみえました。また、夫は告知後の動揺を緩和するために、頼りにしている長男の力を借り、次男は家族の中でコミュニケーションを促進させる役割を果たし、次男を介して患者とのコミュニケーションを取りながら家族で柔軟に対応し、適応力を発揮するようになっていることなどがみえてきました。
 このアセスメントを基に家族への支援を考えていきました。目標を「患者がどう過ごしていきたいのかを知り、残された時間を家族で過ごすことができる」としました。この目標を達成するためには、まずもう一度ICの場を設け家族全員が共通した病状の認識ができるようにしていくことが挙げられました。そのうえで、次男を中心とした新たなコミュニケーションパターンを活用することで、母の思いを引き出していくことなどがあげられました。
 家族システム理論は家族看護の基盤となる理論ですが、今回の検討を通してシステムとしての家族の特徴だけでなく健康問題の発生を契機に変化していく家族の姿を捉えることができ、改めて、健康問題が家族システムに及ぼす影響と、それに適応していこうとする家族の力に目を向ける重要性に気づくことができました。

 


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